シリコンバレー 4.0 InternetOfThingsの時代とHardware StartUpの挑戦
シリコンバレーが聖地なのは常に変わらず。僕自身も頓智ドット社CEOだった当時、2011年春に拠点としたのはシリコンバレーの新たなセンター、サンフランシスコのSOMA地区。周囲には多くのインキュベーション施設があって多くの生きのいいスタートアップが切磋琢磨していた。
我々が当時居を定めたのはDogPatchLabというPier 38(サンフランシスコ湾に面する埠頭のひとつでAT&Tスタジアムのすぐ隣)だった。
そこにあるインキュベーター達は熱気に満ち溢れて爆発しそうな勢いだった。そこでは今やフェイスブック陣営の Instagram がスタートした場所でもあったし、すぐご近所のRocketSpaceには今をときめく Uber 初期の開発拠点があった。
シリコンバレーのトレンドは明らかにSouth Bay(グーグルやアップル、フェイスブックやヤフーなどはサンフランシスコよりも南寄りのサウスベイに拠点がある... )からCity(サンフランシスコ市内)に移っていたし、TwitterやGoogle SFなどの代表格以外にPathやSquareなどもシティから始まる企業ムーブメントを強く牽引していた。
そこはまさに都市全体が全体として大きなエコシステムであり、イノベーション・サイクルであり、人材交流と技術交流の爆発的なエネルギー体だった。それこそ歩いて数分の所で仕事をしているスタートアップ創業者と近所のカフェでミーティングをし、その場でディールする。何事も即決即断!CEOとCEOがお互いの事業機会や技術の相互補完を擦り合わせ、その場で提携する。あるいは交渉決裂する。
「スピードは創造性を活かす最大の効果的触媒」なのだ。僕はその魅力と満ち溢れる起業家精神の策動地に震撼し、ここで世界を変えることの意味と価値を深く理解した…つもりだった。
が、その時点から数年経っただけで、その生態系はさらに大きな変革を迎えつつある。そう、2014年は半導体、PCそしてインターネットの次の新時代の幕開けとも言える局面に遭遇した記念碑的な年になるだろう。それは簡単に言うと「モノのインターネットの時代」の兆しだ。
それこそ2014年1月開催のCESはウェアラブル、ロボット、ドローンなど、いわゆるスマートデバイスのその次の大きな潮流を体現したハードウェア達が主役に踊りでた。
その状況は、2013年夏に僕自身が立ち上げたハードウェア・スタートアップのテレパシー社が居を構えるシリコンバレー中心部(Telepathy Inc.の本社は、SouthBayのサニーベールに位置する。サニーベールは、シリコンバレー発祥の地とも言われる聖地的な場所のひとつで、テキサス・インスツルメンツ、クアルコム、Huawei、CSRなどの半導体メーカーが近隣に拠点を構える一大ハイテク集積地だ)は今まさにハードウェアをソフトウェアの価値観で開発・提供するトレンドの中心地になりつつある。
NIKE FUEL BANDやFitBit、Jawbone UPなどに代表されるウェアラブルのトレンドは、ペブルウォッチのような時計型、あるいは今年、遂に正式リリースを迎えると言われているグーグル・グラスなどのアイウェア型ウェアラブルへと進化を遂げようとしている。
それらは、単なるハードウェアではなくクラウドサービスやソーシャルネットワークサービスとも接続連携することで、膨大な日々のアクティビティをビッグデータ化する「モノのインターネット」時代のフロントエンドを志向しているのだ。
だから、家庭内のスマート・デバイスを手がけるNestLabは3千億円以上でGoogleに買収されたのだし、昨今この界隈でスマートウォッチなどウェアラブル関連企業の買収が非常に盛んなのも、新しいハードウェアスタートアップ達が新しいインターネット(=モノのインターネット)を創造することを予期してのことだ。
彼ら、既に動き始めたシリコンバレーピープル達のしたたかさと先見性は、世界を先駆けて革命的な技術のパラダイムを開拓しゴールドラッシュをもたらしてきた。それはシリコンバレーの伝統と文化だ。
ソフトバンク始め日本の企業、特に自動車や電機、通信、その他多くのハイテク企業がシリコンバレーを目指して押し寄せるのは実に素晴らしいことだと思う。
同じテクノロジー・シードでも、(同一企業内のR&Dプロセスに閉じること無く)ここで切磋琢磨すれば、世界市場の先駆けとしてパフォーマンスすることが可能になるし、それはすなわち日本の最先端テクノロジーを世界市場に浸透・普及させるための最も効果的な戦略になるだろう。ハードウェアの経験と蓄積が膨大にある日本企業の底力が試されている。
ソフトウェアがハードウェアの添え物だった時代があった。それがいまはソフトウェアが構築する生態系抜きにハードウェアが存在できない時代になった。
今年以降のハードウェアは、ソフトウェアを体現する物理的存在が全てコネクトしてコミュニケーションする時代に向かって大きくパラダイムシフトする。
そこではクラウドやソーシャルが当たり前のように連動連携して人の行動をアシストするような新しいデバイスが試されるだろう。
この大きな機会に直面しているのは旧来のメーカーだけではない。いわゆるメイカーズと呼称されるハードウェアスタートアップにとっては千載一遇の好機だろう。
豊かな物づくりの経験と蓄積が活かせるという意味では、シリコンバレーで闘う日系スタートアップの付加価値は非常に高いのだ。それは新しいMADE IN JAPANを世に問う機会でもある。
ハードウェアが単なるハードウェアではなく、人や環境と相互に語り合える状態になる。なかなか日本的な世界観ではないか?万物に霊が宿るアニミズム的なアイデア。いずれにしろ物づくりが高度なソフトウェアサービスのフロントエンドになる時代、我々しか出来ないことがきっとある。