以心伝心記

Technology is anything that wasn’t around when you were born.

初心について - ブレークスルーキャンプでのスピーチより

 今日は僕が頓智を始める前のとてもパーソナルなお話をします。当時、ブログを自動組版してオンデマンド出版するサービスを販売していた自分は凄く憂鬱な気分でした。

「本気で世界を変える様な仕事をしたい、けどそれが全く出来ていない」ことをどうブレークスルーしたら良いのだろうか?実に憂鬱でした。

その時の気分の奥底には1999年に(頓智の前に起業した最初のスタートアップを)起業して以来の辛い気持ちが潜んでいました。

99年当時から、個人がブログで情報発信をし、それが相互に繋がるネットワークを事業化するという構想の辿った道のりは決して平坦ではありませんでした。

物凄く大変で長い期間の開発を終えても(今から考えると、Web2.0以前のサービス開発はハード・ソフト・インフラの調達コストなど、大きく桁が違っていました)、それを製品として収益に繋げて行くプロセスは本当に終わりの無い旅の様でした。

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そのなかで多くの大事な仲間達が傷つき去って行く。少なくとも、自分が頑張った事で誰も幸福に出来てない。理想を求めて、完璧を期して、困難な開発に向かえば向かう程、誰もハッピーになれない。そういう壁を強く感じていました。

そういったなか、偶然友人がこういうことを言ってくれました。「井口さんは夢を語って仲間を鼓舞することをやれば良いんだ。それができる人は世の中にそんなに多く無いのだから」多分こんな感じの表現だったと思います。そして、それはすごく良いヒントでした。

なるほど、「世界を変えよう!」なんてことを真剣に語り、人を巻き込み、実際にそれを実現するために邁進する人が希少なのなら、それは最大限活かさなければならない。そういう考え方はもっともな考え方のようです。

そして、その考え方は、同時にもうひとつの懸念も払拭してくれました。それは「自分のアイデアを秘匿するのではなくオープンに共有する方が楽しい。だが、ビジネスではそれは好まれない(多くの場合は、秘密主義を良しとする)」というジレンマでした。自分にとってその足かせは非常なストレスでした。

でも、本当に夢を語って実現に向けて走り続ける事が使命なのであれば、むしろ人に対してオープンに語らない方がおかしい!それよりももっと積極的に語り、巻き込み、形にすることを追求するべきだ!と、そういった面でも大きな心の障壁が乗り越えられた気がします。

 

さて、そんな自分の体験を経て皆さんにお届けしたいのはこの言葉です。

初心者の心には多くの可能性がある。専門家の心にそれはほとんどない。

- In the beginner’s mind there are many possibilities, but in the expert’s there are few. -

SHUNRYU SUZUKI

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鈴木俊隆氏はスティーブジョブズの禅の師匠であり、「Beginner's mind Zen mind」の著者です。

スタートアップは基本的に失敗の連続です。

失敗の連続から何を学び取っていかに成長出来るのか?を突きつけられる毎日です。

ですが、実は何も持たず、成功体験も、資本力も、影響力も、開発実績も、組織力も、多様なノウハウも、商流も、営業力も、特許も、知的財産も、経営能力も何も無いスタートアップにとって、そのゼロスタートの瞬間こそが彼らにとって最も強力な瞬間なのではないか?と思っています。

なぜなら、あらゆる前提条件や既成概念を乗り越えて、あるいは無視することで(場合によっては破壊的に)新しい価値観を実体化するのがスタートアップの優れた機能であり特性だからです。

ですから、何かに堪能である事(それは一定の枠組みに組み込まれている事でもあります)。影響力を持っている事(それは影響力を受ける事も含んでいます)。組織力や資本力のある事(それはその組織や資本の使い方使いこなしといった面では一定の束縛がある事を意味します)。

商品力や顧客開発力を持つ事(ある商品の力/その商品の販売先などの商流ネットワークは、その価値を揺るがす本質的イノベーションを否決する傾向があります)など、多くの企業にとっての強味はスタートアップにとっては、過去のしがらみとして否定(あるいは反転)することが可能なのです。むしろ何も無いからこそ全く新しい仕事が可能です。

 

ですから、「初心者の心」にこそ大きな可能性があります。「専門家の心」には既成概念に囚われた曇ったフィルターがかかっています。ですから、自信を持って巨大企業/巨大組織/強力な既製の成功製品に勇気を持って挑みかかって下さい。

ただ、そこで怖いのは、もしかすると自分自身の囚われた心なのかも知れません。僕の場合は「夢を語る勇気を欠いていた事」そして「夢を語るオープンマインドを確信し切れなかった事」が大きな壁として心に強い偏りを作っていました。

自由な気持ちで、自然な態度で、己の信じる事を自由なマインドで、とてもオープンな態度で、積極的に困難にチャレンジすること。ぜひ、皆さんのブレークスルーを成し遂げて下さい。

なにより、みなさんの初心こそが大きな武器なのです。どうか「初心」を忘れずに!

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