以心伝心記

Technology is anything that wasn’t around when you were born.

メーカーズの魂 - Big Idea , Big Picture で新しいインダストリーを創ろう。

週末、渋谷でたまたま面白いプロダクトを見つけました。

インターネットから生まれたカメラ、軽量で、コンパクトで、簡単操作で、ノスタルジックなスクエアサイズの写真が撮れるカメラ。実際に取られた画像も映像も(動画も撮れるのですね)非常に独特の色合いと味わいを持った素敵な質感をもたらしています。素晴らしい!と、思いかけたのですが、現物を手にとった時に猛烈な幻滅が押し寄せました。

透明プラスティックでサンドイッチされたパッケージは夏祭の屋台で販売している印象です。ボディは繋ぎ目と留め具がはっきり分かる上に金色のキーホルダー(量産品の流用なのでしょうか?)が、オブジェとしての品が質低いことを明瞭に物語っています。

アクセサリーとして身に着けたくなくなる金色のキーホルダー。すべてが台無しです。いくら安価で求めやすいガジェットと(3,000円台)はいえ、途端に物欲が去ってしまいました。なんだか作り手に馬鹿にされた気さえしてしまったのです。

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もしかすると、このカメラは、本来非常にユニークで大きなポテンシャルを秘めたデバイスだった気がします。

もしもインスタグラムをハードウェア化できたら?と、考えた時。そこで生まれる体験性が優れており、その撮影体験から生まれる日々のスナップが人をスティックさせる魅力を持っていれば、それ自身が写真共有のメディア、あるいは写真表現の土台になったかも知れません。

日々の思いを共有交換できるライフログメディア?または、センシティブな写真表現を通じたコミュニケーションのもたらす画像と映像のコミュニティとして成長できたかも知れないです。

いずれにしろハードとソフトの組み合わせだからこそ出来る固有のサービスを育成可能だった気がします。が、残念ながら、このデバイスにはとてもお金を払う気になれなかったのです(愛好する方々を悪く言う必要はないのですが、あくまで僕の個人的な感想です)。

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メーカーズムーブメントは、主に作り手都合で語られることが非常に多い気がします。ハードのオープンソース文化、製造業の民主化、物づくりの担い手がどんどん起業家に広がっていくダイナミズム。それは確かに創造性を有し、リアルに触れるオブジェクトを使って世界の変革を志す作り手にとっては大いなる福音だと言えます。

ですが、各種のファブ革命は、ある意味(少なくとも現状は)ハードウェアにおけるリーン的な潮流であり、リーンプロトタイプを可能にするという作り手都合としての「可能態」に過ぎません。

ところが、モノづくりで世界を変えるということは、その製品自体の広がりと、それを取り巻く多種多様なバリューチェーンを組み換え、新たなエコシステムを構築することを意味します。つまり、単にモノづくりが楽になるという作り手の利便性に留まらず、それを起点にした新しい"インダストリー"を世にもたらすことと同義です。

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ですから、何より、その物自体が固有の素晴らしさをもって多くの人達に進んで受け入れられる必要があります。

当然、それが大量生産されるマスプロダクトでないといけないと思い込む必要はありません。また、物自体に限らず、その伝え方、売り方、継続的なサービス等の提供を通じたユーザーとの長期的かつ継続的なエンゲージメントなど含めた革新性が求められるでしょう。

 

今起こっているメーカーズの大きな潮流を、その現物、今まさに目の前に見えつつ有るプロダクトを通じて感じる機会は増えています。

先週は MisFitのShineというウェアラブルデバイスのシンクロアプリ開発に参画しているDouZenというスタートアップの方とお会いしました。

それは5セントコイン大のセンサー付きコンピュータです。NIke+が日本では最も知られていると思いますが、最近ですとNIke FuelBandやJawboneのUp Wristbandなど、非常にホットな領域として(スポーツや健康管理などを扱う、ウェアラブル・コンピュータですね)盛り上がっています。

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それはLEDが複数個円周上に埋め込まれたUFO型のデバイスなのですが、それをiPhoneのスクリーンに置くだけで各種のシンクロ作業が進むという実に先端的なユーザー体験を提供しようとしています。

しかも、彼らのこの最初のデバイスは Indiegogo というクラウド・ファンディングで資金獲得が行われています(KIckStarterよりも早くスタートしたサービスです)。

そうなんです。NikeやJawboneだけでなく、AppleGoogleと言った巨人たちも虎視眈々と狙っている非常にホットな領域を、この先端的なハードウェア・デザインとアプリケーション(および体験性)で、しかも、クラウドファンディングで戦おうとしている訳です。

そういった状況情景を見る限り、日本の日曜工作的な感覚や価値観とは、はなからステージやスケール、意欲意図の有り様や行動原理が全く違う気がします。

少なくともMisFitの彼らは本気でアップルやグーグルの牙城に食い込もうとしています(Co-Founding に、あのジョン・スカリーが参画しているのを見ても野心満々だと分かります)。

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さて、今日はクリスマス。しみじみした気分で亡きジョブズを偲ぶジョナサン・アイブの言葉を振り返ってみたいと思います(敢えて広島弁バージョン)。

 

そのモノづくりに賭ける情熱、その強靭で広大な意志のもたらす(人の心を揺り動かさざるをえない)執念の力。アップルとジョブズが世界を変えたことを誰も否定出来ないでしょう。

僕は新しいメーカーズ達が単なる個人的な満足に終わることなく、それが生み出す(それまで存在しなかったであろう)製品群が、やがて多くの人の価値観や生活スタイルを大きく変革するような"インダストリー"へと成長することを確信してやみません。

ですが、残念ながら現状ではシリコンバレー流の Big Idea , Big Picture の方が、その世界に限りなく肉薄しているように思えます。

それに比べて、日本のメーカーズの動向は未だに極めてパーソナルで、モノ作りの作り手目線に収まったものが多いのが現状です。

個人がモノ作りを始めたからといって、それですぐにソニーパナソニックなど大企業病的で退屈極まりないモノ作りがイノベートされる様なことは未来永劫起こらないでしょう。

新しいメーカーズこそ、新しいインダストリーを創造する際かつてのアップルやジョブズ以上の情熱と執念を持って取り組むべきだと考えるのです。

スティーブはよう「精神病患者が精神病院を支配した」いうジョークを言いよったんよ。 そりゃあ、誰も絶対見ることがない製品の一部に何ヶ月も何ヶ月も費やす、めまいがするような興奮を共有してきたけえなんよね。 目で見てもらえるけえじゃあのうてね。

 

なんでわしらがそこまでやったんかいうたら、わしらがやるけえ、そりゃ正しいんじゃあいうてほんまに信じとったけえなんよ。

彼はなんか重力があるいうて信じとった。ほとんど市民としての責任みたいなことで、機能的な必要なもんの類をはあ超えるもんをいらういうことでのう。

 

あの、作品は、必然性があって、シンプルで、みやすいもんに見えて欲しいんじゃけど、そりゃほんまやねこい。わしらみなやねこいじゃろ?

じゃけど、なんかわかろうがや? 彼が一番やねこかったんよ。彼が一番気をもんどったんよ。彼が一番深う心配しょうったんよ。

彼は常々聞きょうたわいねえ「これでええんかのう? これが正しいんかのう?」いうて。彼の成功とか成し遂げたことにゃ関係なしに、彼は最後にはたどり着くとは、絶対思わん、絶対仮定せんのんよね。

 

アイディアが出んかったときとか、プロトタイプが失敗したときに、大きい意志と確信とともに、いやわしらはいつかはものすごいええもんを作ることになるんじゃーいうて信じるいうて彼は決めとったんよ。

じゃけど、そこにたどり着いたときのうれしいこと。わしゃ好きじゃったわ、彼が熱中したり、無邪気に大喜びするのが。(安心した感じもよう混ざっとった思う)ああ、わしら着いたわ。わしらとうとうたどり着いたんじゃ。でそれがええもんじゃった。

 

彼の笑顔が見えるじゃろ?みんなのためにすごいもんを作ることを祝うて。 皮肉を打ち破ることを楽しみ、道理は拒絶、 何百回も「あんたあ、そりゃできんわ」いうて言われることも否定できるんでよ。

 

引用元 Jonathan Ive 卿が Steve Jobs の追悼するけぇ、よう聞きんさい

 http://kita.dyndns.org/wiki/?JonyIveCelebratingSteve

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