以心伝心記

Technology is anything that wasn’t around when you were born.

メーカーズ精神の本質

来週のメーカーズ講座に向けて、自分なりにアイデアを整理しておきたいと思います。先ず、クリスアンダーソン訪日時の取材記事にもあったのですが「なぜメーカーズ精神とスキル」を持っている若者が大企業を選択するのか?ですが、これはメーカーズを考える上で(特に日本国内で!)コアな問題をあぶり出している様に感じます。

なぜなら、普通に考えると「資本、信用、人材、知財、生産力、流通、設備、組織力」など揃っている方が有利と考えるのが当然だからです。ですが、今、少しずつ見えて来ているメーカーズの動きは、むしろ「大きな資産を持っている方が弱い。何も持っていない方が強い」という避け難い現実を突きつけつつ有ります。たとえば、書籍出版を例に挙げてみましょう。普通に考えると、編集スキルとネットワークを有するスタッフを大勢揃え、印刷会社と有利な付き合いをしており、書籍流通との強力なパイプを持ち、書店でも良い扱いを受けられる。銀行借り入れも良好で、固定顧客を有している出版社。その方が有利に見えますね。

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が、見方を変えると、いまや作家を探し、そのコンテンツを協同的にマーケティングしながら編集する力は、"電話とファックスと作家との個人的関係(例:お酒を飲み交わす等)"に依拠した個別固有の力から、ソーシャルな土台を通じコミュニティ的に生成発展する方法に移行しつつ有ります。そして作家自身も自らを開示し、インターネットでオープン協業するようなスタイルを積極的に試行錯誤しつつあります。

そして、印刷ー>流通ー>小売りのプロセスは、キンドルなど電子書籍の世界では物凄い勢いで消去されつつあります。電子インキで電子的に流通するコンテンツをオンラインで取り引きするスタイルの方が断然効率的で、読者とのコミュニケーションも迅速かつ柔軟で親密な関係を構築出来ます。

いろいろな意味でメカニカル、システマティックに従来の卸売りや小売りがどんどんDisruptされていっています。これは景気の動向とかそういうモメンタムとは全く異なる意味でのベーシックな"チェンジ"です。恐らく、これは不可逆の動きですし、残念ながら既存の書籍出版モデルに慣れ親しんだ出版社は、インターネットのオープンな協業やソーシャルなマーケティングを書籍の編集、出版、販売、顧客関係構築に応用する術を持ちません。老舗であれば有るほど編集者も読者も共にネット全盛前の世代ですからお互いがネットリテラシーが弱い訳です。

ですから、彼らのパワーはむしろマイナスに作用します(人を全員解雇して新人を雇用して教育する?でも、その教育を行なえる人材はどこへ?そして、その新しい方法論は誰が成功を保証する?)。

銀行や取引先も既存のモデルを信じて取り引きしています。事業計画に於いても昨年の計画の焼き直しでテコ入れする事を求めるでしょう。しかも印刷会社や書籍流通は資金のやり繰りも深めたバリューチェーンに組み込まれていますから、電子書籍のエコノミーへの転換・移行を疎外することこそあれ、それを促進発展するパートナーにはとてもなってくれません。そうすると、多くの取引先や資金提供者も、もはや抵抗勢力、さらなる進化発展への大いなるバリアでしかありません。そうすると、ますます既存の信用力や資金力もマイナスへと作用してしまいます。

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簡単にサマライズすると、冒頭の「メーカーズ精神の持ち主が、なぜそのまま大企業に入るのか?」のクリスの問いかけは、上の様な構造体に堕しているメーカーへ参加することはもはや自殺行為に過ぎないのではないか?という問い掛けに置き換えることが可能です。上の様な構図はほぼ絶望な状況で、あとはどれだけ延命できるのか?と、いう図式なのだと思います。本がデジタル環境へと移行するのには、それほど時間はかからないでしょう。では、デバイスはどうでしょうか?デバイスはアトムのままでアナログ世界に留まり続けるのでしょうか?ここでは、敢えて分かり易くする為、上の説明をそのまま日本の製造業へ置き換えてみましょう。

例えば、パナソニックやソニーの新社長が就任演説でいきなり「明日からは総ての既存流通を廃止してダイレクト販売に切り換えて利益率を飛躍的に改善する。中央研究所は廃止して、無駄な基礎研究はグローバル産学協同方式に総て変更することで最適化最速化する。」

「製品の企画開発はネットのオープンプラットフォームに変更して、社内のマーケティングチームは廃止する。全社員がリモートオフィス化し、インターネットでの対話こそを開発の現場とする。エンジニアリングの分からない営業社員は全員首。マーケティングの分からないエンジニアは全員首。ソーシャルなクラウドソースへとワークスタイルを切り換える事で雇用は1/5に削減する。一般管理部門も総てを海外アウトソースへと切り換える。」

「工場はすべてファブレスへと変換する。世界的なバリューチェーンを用いる事で最適効率を追求するので、国内海外の工場は独立採算化し、出来ない所はそれらは総て売却する。製品ラインは、自社のノウハウ/カルチャーとして最高最強の分野にのみ特化して、それ以外はカット。利益率一定ライン以上の水準を満たせない負け犬の製品ラインは、総て廃止する。」

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「これで設備と従業員は大幅に縮小するが利益率と成長率は既存の数字の10倍の数字を実現する。今後は、自社のブランド価値を最大限高める為にあらゆる集中を行なう。我々は負け犬製品は絶対に作らない!最高にクールで世界中の顧客が愛して愛して堪らなくなる製品だけを手掛けることで、世界最大級の高付加価値メーカーへと変貌を遂げる。これは革命なのだ!」

なんてことをステートメントしたら本当にオオゴトですよね!社会問題化して、即座に更迭されそうです。

でも、実行の程度や実施期間は別として、ここで述べられている様な事の多くをAppleに復帰したジョブズは数年で実現してしまった訳です。その凄まじい執念、強靭な完遂力、その本質的な付加価値の組み立て方は幾らでも評価することが出来ると思います。そして、恐らくメーカーズのやるべき事は、DIYでホビー的なモノ作りを和気あいあい楽しみましょう!と言うムーブメントのみではなくて(それを否定する必要は全く有りません!)製造業のエコシステムを丸ごとDisruptしてしまうことなのだと思います。

既存のメーカーが余りに多くの負債によって身動き取れなくなっています。また、数多くの制約、束縛がメーカーの自由闊達なアクティビティのブレーキ役になっています。それはきっとメーカー自身のプロブレムではなく、産業の構造がそもそも老朽化してしまい、税制や雇用法などの制度部分や就労以前の労働教育や産業育成のシステムなど含めて倒壊しようとしているのではないか?と感じています。

1991年8月6日にティム・バーナーズ・リーによってウェブがリリースされたあと百花繚乱の様に誕生し、発展、普及していったポータルやサーチ、メディアやコマースなどを観た時の様な驚愕すべき社会的変革がアトムの世界でも起りつつ有ります。いまや、それがメーカーの生態系をどの様に書き換えるのか?を自らの手で主体的に手掛けてみませんか? MAKE YOUR MAKER !!

One Last Thing Steve Jobs Documentary

http://www.youtube.com/watch?v=SQr0HddYk94

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