以心伝心記

Technology is anything that wasn’t around when you were born.

"アトムからビットへ!"は、もう古臭い考え方なのかもしれない。

インターネット誕生からスローガンだったのは、"アトムからビットへ!"だったはず。

それがどうして物凄く面倒かつ、足腰が重くて不用意な不良債権を抱えかねないモノ作りに向かっているのか?そこには幾つかの人それぞれの入り口が有りそうです。

例えば、こういうインスピレーションが多くの起業家の脳内に発火しているのではないか?というのを幾つか書き出してみます(個人が利用可能なファブリケーション環境の成熟やキックスターターなど個人向けファイナンスの仕組みの充実などは、クリスアンダーソンの名著「MAKERS」にお任せします)。

 

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①自分の方がもっとうまくやれるのではないか?

発明家気質の起業家に限らず、日常生活で様々な家庭製品を触っていて「あれ?なんでこうなってるの?」「どうして、こういうことができないの?」ってイライラする事は多いですね。ネットベンチャーの人、ネットサービスの企画者や開発者はインターネットやソーシャルメディア、あるいはオンラインコマースやロケーションサービスなどで既に可能になっている事を基準に考えますから、そういうストレスがより大きいでしょう。

そして、さらに言える事は多くの場合解決策を自然に脳内に浮かべられる事です。残念ながら既存の大資本のメーカーではそうは行きません。

なにしろソーシャルネットワーキングやシェアリングサービスへのアクセス回路が遮断されている職場で、それこそスマートフォンタブレットを業務でフル活用する機会など与えられない中での発想発案には大きな制約が働きます。一方、クラウドを通じて人の行動が共有/連携することを当然とするなら、いままで不可能と思っていた生活製品をデザイン出来る筈です。

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たとえば、世の中に出ているネットテレビはほぼ全てがガラクタの山です。あれはどうしようもなく旧い慣習や旧態依然の制度に縛られた妥協の産物で、ネット動画のポテンシャルをゼロベースで考えた製品では決して有りません。

アップルが開発中の新しいテレビに注目が集まっていますが、テレビのパネルは限りなく安価になっているのですから、テレビの再定義として本物のイノベーションを手掛けるメーカーがネットの側から出て来てもおかしく無いと思います(新しいハードが本当に必要かどうか?は、現実にその製品を設計する中で決めれば良いでしょう。例えば、Amazon キンドルはアプリでありハードでもあると言う新しいデバイスです)。

そして、当然ですが日常ストレスを感じるコンシューマーデバイスは決してテレビに限りません。クーラーも電子レンジも冷蔵庫もひげ剃りも掃除機もネット以前の発明の旧い考え方に基づいてデザインされています。

だからこそ、イノベーションの余地が膨大にあると思います。例えばルンバの改良点、今直ぐ挙げろ!と言われて少なくとも10の改良点が直ぐに浮かぶ筈です。そして、そのなかにはホームクリーニングを中心にした新しいイノベーションの種が数多く含まれていると思います。

 

②リアルエコノミーの方が規模がずっと大きい。

情報消費経済はリアルな消費経済の一部です。人は肉体を持ち、現実空間で行動をし、リアル経済の消費にこそ最も結びついた存在です。もう少し正確に言うなら、情報の組み替えや応用によってモノはさらに付加価値を生み出し易くなります。

アトムはもはや単なるアトムではなく、ビットで強化される事によって新しい製品として生まれ変われる時代に差し掛かっています。

ソフトウェアの側から捉え直される事で携帯電話は全く違う物へ進化を遂げましたが、それは携帯電話に限った話でしょうか?モノの再定義は自ずと、それの使われ方や応用シーンを書き換えます。

我々はアプリケーションやウェブサービスの持ち場をここまで!と考えがちですが、そういう制約を設ける事で製品のアイデアだけでなく、それを通じてどういう収益モデルを組み立てるのか?の部分に於いてさえ一定の枠組みで考えがちです。

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アトムの世界に満ち満ちている非効率や不合理をタネにする事でもっと多くの機会を得られると考えれば、メーカームーブメントの裾野は相当広いと思います。

スクエアは個人間の資金の移動をスムースに繋げてしまおうというサービスです(あの小型カードリーダーは最早必須とは言えないのですが、サービス当初の牽引役の役割は充分に果たしました)。これはネットの個人間決済の効率性利便性をリアルワールドでも提供しようという試みとも言えます。

そして、その決済の対象範囲は当然リアルワールドの方が断然大きいのです。

グーグルがグーグルグラスを開発している意味もそこにあります。人が何かを知りたいと思う瞬間はネット以外の空間の方が大きいハズです。そうしたときにウェブの画面にキーワードを打ち込む様なやり方は実に不経済です。そう考えた場合、視界に入った物のサーチがリアルタイムに実行出来る自動サーチデバイスを提供することが出来れば、彼らのサーチ経済は飛躍的に拡大します。

 

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③ソフトウェアに対して本当に真剣な人は、独自のハードウェアを作るべきだ。

これはSmalltalkDynabookの生みの親、アランケイの有名な文句です。2007年のiPhone発表のキーノートスピーチでもスティーブジョブズが引用しているので、ご存知の方も多いでしょう。

アプリやウェブサービスは少なくともその動作ハードウェアの制約範囲内でしか動作出来ません。iOSAndroidなどの場合はより顕著にマネタイズの仕組みや各種禁則事項で非常に厳しく縛られています。

機能性と収益性の面でそれぞれ縛られた環境で問題が無い場合は良いのですが、ソフトウェアに真剣であればあるほど、その制約は苛立たしい物になります。

さらに言うと、そもそも利用スタイルそのものがアプリ提供の範囲内ではブレークスルー出来ない様なケースもあります。たとえば、新しいタイプのメガネを考えた場合、それがユーザーの必要に応じて望遠鏡になったり顕微鏡になったりという仮想のメガネを考えてみましょう。

こういったものは既存のスマートフォンのハードウェア内では実現困難です。そこまでいかなくても、現実に「文字を認識して、その翻訳結果を現実のビデオイメージにオーバーレイする」アプリがありますね。例えば、ああいったアプリも装着可能なデバイスで動作すれば飛躍的に使い勝手が向上して、より常用性が高く有益なソリューションになります。

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インスタグラム対応カメラをキックスターターで発表しているヒトがいましたが、カメラの再定義をデバイスごと考えてみるのも非常に面白いでしょう。

撮った後で焦点を変えられる革命的カメラLytroなどは非常に分かり易い例です(Lytroは光線の色と強さに加えて、光の向きまでも記録することで視野を捉えられると言うアイデアを現実化したカメラ)。

Lytroは「そもそもピントを合わせる必要が無い」カメラです。それは即ち「カメラはピントを合わせる為に進化すべき」と言うパラダイムを打破することなので使われ方次第ではカメラの利用のされ方を大きく書き換える可能性がありますね。ソフトウェアの側からハードウェアを捉え直す。そうすることによって、ソフトウェアのアイデアもより制約を外して思考出来る。そういう可能性を強く感じます。

 

もっと様々な考え方や視点が有りそうですね。

誰もがメーカーを想像/創造できると言う時に、どういう製品をどういうチームで開発提供するのか?ソフトウェアの枠組みに囚われず、リアルワールドの様々な非効率不合理を種にして、強く深く思考してみる事で何が生まれるのか?

2012年の現時点、まだその兆候も微かでは有りますが、チャレンジを恐れない起業家には醍醐味です。ソーシャルな調理器でクッキングがどう変わるのか?クラウドな掃除機はホームオートメーションの入り口になるのか?頭脳を有したホームビデオカメラは人生の捉え方をどう変えるのか?アイデアには限界がありません(写真はinstacubeというインスタグラムに連動したフォトビューアーです)。

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