以心伝心記

Technology is anything that wasn’t around when you were born.

SXSW2013はもう始まっている。

SXSWインタラクティブが終了して10日が経ちました。多くの貴重な報告が着々寄せられています。報告のイベントや雑誌記事などこれから益々増えて行くと思います。僕自身、まだその興奮から醒め切っていません。TechCrunchTechWaveへの寄稿も、その興奮の中で一気に書いたものです。

とはいえ、SXSWの成果は、その最中に起こったことよりその後どれだけ良い仕事ができるのか?に懸かっています。多くのSXSW参加者が貴重な経験をし、多くの学びの機会を得ました。それは人によっては人生に大きな影響を与える様な衝撃的なものだったと思います。実際、日本への帰路につく手前から、開催地のオースティンで多くの日本人とそういう会話を交わしていました。そして帰国便経由地のダラスでは早速振返りのイベントを企画していました(ブレイクスルーパートナー赤羽さんがエアポートのロビーで企画書を書いて下さっていたのには感動しました)。

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写真① オースティン流人力車は一度体験してみて下さい。

ライブミュージックの殿堂と呼ばれるテキサス・オースティンで、音楽、映像、そしてインタラクティブを合体させた一大フェスティバルが行われていること自体、一部の音楽関係者やテックギーク以外にはほとんど知られていません。音楽/映像のフェスとしても存在感はまだまだです。

50,000人を超える登録者が1週間以上の期間に集結し、数千回を越える大小のイベントが開催され、3,000を越えるメディアが取材に訪れるSXSW(サウスバイサウスウエスト)がここまで認知されていないのは不思議に感じます。日本で例えるとすれば「コミケワンフェスの隣で、フジロックとCTECとMAKEと無数のハッカソンが一気に、しかも渋谷駅から道玄坂上のエリアで同時開催されているイメージ」です。これは、なかなか想像しづらいですね。でも、だからこそ逆に未開の大地といった観の有るSXSWには秘められた魅力があるのかも知れません。

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写真② オースティンコンベンションセンターに「ありがとう!」の横断幕が掲げられました。

SXSW2011に参加した自分としては、二年目のSXSWは感慨深いものでした。なにしろ、2011 3.11のその瞬間に僕はオースティン空港にいたのです。ですから、今年のSXSWへの参加は昨年の3.11からの1年を刻み込む忘れ難い旅でした。ですので、トレードショー #900 エリアのジャパン・ブース上空には「ありがとう!」の大型バナーを掲示しました。昨年震災直後、SXSW事務局及び多くのブロガーやアントレプレナーなどからの想像を超える支援に対して僕ら日本のスタートアップができることは「新しいテクノロジーで世界に新しい価値をもたらすこと」しかありません。そこで、渡米直後参加した各国代表によるプレゼンイベントTechSummitでのプレゼンテーションでは、震災から立ち直る日本人の意地を見せます!と言う内容を伝えました。

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写真③ 洛洛.comさんのブースは常に熱心な来場者で盛況でした。日本のスキンケアを世界に!

既に幾つかの記事で伝達されていますが、昨年の約50名程度の参加者に対して、今年は200名を越える参加者がSXSWを体験しました。そのなかでも18社がブース出展し(昨年は8社)、このイベント(SXSWトレードショー)に向けて準備した新製品をプレゼンテーションしました。なかでも目立っていたのはスマートフォンアプリでスキンケアを可能にした洛洛.comと話題のテックショーケースTechCocktailへの進出も目覚ましかったCompath.meでした。

彼らが良かったのは、トレードショーでのプレゼンスを高める為によく考えられた各種マテリアルと出展ブースの設計、および製品価値を伝える為によく練られたプレゼントークなど、海外プレイヤーとも闘える武器を持っていた点です。来場者のレベルが高いSXSWですから、単に出場したというレベルではなく納得させられるだけの準備は不可欠です。そういう当たり前のことを限られた期間に限られたリソースでどこまでやり抜けるのか?が、簡単そうに見えて実は非常に大切なことだと言えます。

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写真④ ナスカークラフトさんのブースに来てくれたテキサスの少年。興味津々です。

SXSWの醍醐味はトレードショー会場に限りません。ごくごく一部の存在です。とはいえ、そこでリアルに対面し、製品魅力を伝えられること。その機会を活かすも殺すもプレイヤー次第であることは言う間でもありません。世界規模のマーケターや企業経営者、あるいは第一線のジャーナリストやインフルエンサーとの対話は製品の価値仮説を大舞台でしっかり確かめるチャンスですし、今後の海外展開に向けた提携ディールを追求することなど、大いにやるべきです。

今回の日本ブース内でも Compath.me、洛洛.comさんや、位置情報系PRツールを発表されたナスカークラフトさんが目立っていたのは、展示マテリアルや営業トークを相互作用的に組み立て直していた臨機応変以前に、出場前のブース設計やプレゼンテーションの準備にしっかり手間暇を掛けていたからだと思います。間違っているかどうか以前に自分たちなりの仮説を立ててそれを検証するプロセスがそこに存在するかしないかで、実際の展示の際のリターンが大きく変わって来るのです。そういう用意の為にもSXSW2012の記事やブログなどは参考になると思います。

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写真⑤ TechSummit直前にピッチのトレーニング。全員時差ぼけと闘いながら必死にやりました。

SXSW 2013に向けて現地で気付いたことを幾つか書いておきます。まず、これは以前からよく言われることですが、日本人はとにかくプレゼンが凄く苦手です。

これは英語のコミュニケーションが苦手と言う前提もさることながら、他者に向けて強い印象を与えること。そのため論理と情熱を駆動して堂々と物語を語りかける饒舌さを発揮すること。これらの姿勢、態度は普段の日本的なビジネスシーンでは決して一般的なスタンスではありません。でも、逆にSXSWのような場で、「確信をもって堂々と意思表示をする」ことは最低限の基本姿勢です。何か尻込みしたり遠慮や謙遜している間にチャンスはどんどんすり抜けて行きます。

TechSummitプレゼンの直後にCNNの取材を受けろ!とパスを投げてくれたのはオースティン振興局の女性マネージャでしたが、そこからCNNの期間限定レストランに向かって、しかもバックヤードの取材バスに乗り込んで..という積極性は現地では当然のアクションです。日本だともう少し丁寧に戦法から取材プロセスが提示されるのでしょうが、ここではそんなことを期待しても全く無駄です。

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写真⑥ TechSummitでの成功を受けてCNNの取材が即入りました。この当意即妙がSXSWです。

SXSW2012に比べるとSXSW2013に参加する日本のスタートアップは非常に恵まれています。そもそも何も情報が無かったSXSW2011に比べても、今年はかなり楽でした。そして来年は今年の200人の経験を踏まえて闘えるのですから断然有利です。

今年の200人だけでもインパクトの有ったSXSWですから、より多くのスタートアップが活躍することで日本勢への注目や取材もますます高まることでしょう。スマートフォン・アプリとウェブサービスが連動して展開される今日のテック製品はもはや国境と無関係にスケールする可能性をどのプレイヤーに対しても開いてくれています。そしてそれを世界規模でマーケティングする際の最高のデモグラフ(世界各国からアーリーアダプター層が大勢やってくるうえ彼らはテック系に限らず情報共有を強く欲しているのです)をオースティンの場は与えてくれているのだと言えます。

逆に世界中のイノベーターと直接対話出来る機会を自分で作るとなるとなかなか大変ですし、各国のイベントに続々参加するのも簡単ではありません。また、北米エリアに限ってもテックとカルチャーにまたがって多くのインフルエンサーと密なコミュニケーションが取れる場は限られてしまいます。

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写真⑦ SXSWアジア事務局のオードリーさんとのスナップ。もはや戦友ですね。

僕自身も今回のオースティンではニューヨーク発の起業家やビジネスパーソンと多く出逢えることができました。そこで分かったニューヨークのスタートアップ事情は非常に新鮮で示唆的でした。僕以外の参加者も多くの邂逅と洞察を得たことと思います。そういったチャンスに向き合って、どうリアクションするのか?のための貴重な猶予期間として、来年のSXSWまでの一年足らずの期間を活かしたいと思っています。

そのためには製品開発だけでなく、その製品価値を確かめるための様々なアプローチ、製品を顧客に届ける為の様々なプロセスなどをより適正、適切にやり続けて行く日々の注力が欠かせません。そのゴールにSXSW2013を置くことには大きな意味が有ると感じています。

具体的には年末の各種アワード締め切り迄に新サービスのローンチとコア顧客獲得を済ます位のサイクルでないとスケジュールに間に合いません。そこから逆算すると9月くらいには少なくともクローズドβが稼働していないと駄目な計算になりますね。そして、これは早ければ早いだけ有利なのです。

6月にはクローズドローンチで9月にはオープンβ、年末にはメディアにいろいろ取り上げられ始めている。そしてSXSW開催の3月手前には大きなバージョンアップが有る。そのくらいのスケジュールで進められると素晴らしいと思います。そのように考えると時間的猶予は僅かなのです。

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写真⑧ オースティンの夜はアツい。あちこちでストリートミュージシャンが演奏しています。

今回電通さんがノミネートされたInteractive Awardと、始まったばかりのスタートアップ企業もエントリー可能なAccelelaterがSXSWインタラクティブで注目される二大賞です。もしもここにノミネートされることがあれば、それだけでもファイナンスやマーケティングの双方で得られる効果は大きいので狙ってみるのも良いでしょう。

今年Compath.meが堂々出場したTechCocktailに参加することなど各種スタートアップショーケースに出場するもの良いですし、PitaPatやカヤックが参戦した AppCircus で審査員から厳しいコメントをもらうのも悪くありません。異なる価値観、異なる言語圏、異なるカルチャーからしっかりとレビューされ、それを通じて対話出来る。これが無価値な筈は有りません。

今年電通さんがアワードにノミネートされていましたが、これは昨年に初出展をされて、その後のたゆまぬ努力を経て実現されたことだと確信します。そして、今回の栄誉は本当に褒められるべき大きな成果であると考えます。次の機会にはあの壇上に登るんだ!と誓ったスタートアップは数え切れないでしょうし、そのための予備選は既に開始されています。

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写真⑨ SXSWトレードショー開始直後、テレビ東京の取材スタッフの皆さんも大活躍です。

海外メディアしか存在しなかったSXSW2011に比べて、Gigazine、TechWave、WIRED日本版以外に週刊アスキーの福岡さんもいらっしゃっていたSXSW2012はこれから断然国内でも知られることになるでしょう。テレビ東京WBSでの放映パートも大きく取り上げられていましたし、イーストのツギヒロさんが製作されているBS朝日のスタイルブックでも今日まるまるSXSWインタラクティブ企画です。

来年はますます多くのメディアが日本から参加されることを強く期待したいと思います。メディアが取り上げることで、SXSWが持っている独自の空気や熱気が伝わって、それでまた新しい参加プレイヤーの参画に繋がればと思っています。ちょうどオスカーやグラミー、あるいはカンヌなどで「いつかは獲るぞ!」って思う表現者が出て来るのと同じ様なことだと思います。

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写真⑩ オールドスクールバー&カフェでトレードショー前日に行ったメディアランチのひとこま

SXSW2013インタラクティブは来年の3月8日からです(http://sxsw.com/node/10886)。来たる4月5日には、渋谷のMixi本社でSXSW2013に向けての最初のミートアップ・イベントを行います。我こそは!と思われる方はぜひご参加ください。僕以外にも TechWave、Gigazine、Wired など現地取材されたメディアの皆さん、ブレークスルーパートナーズの赤羽さん、DeNAの川田さん、コミュニティファクトリー松本さんなどの著名な起業家、そしてCompath.meやPitaPatなどSXSW2012参加スタートアップの皆さんといった豪華ゲスト陣も参加します。どうかお楽しみに!

【イベント】4/5(木)SXSW2012 Look Back Meetup~SXSW2012を振り返り、SXSW2013に向けて多くを語り、多くを学ぶ!

http://peatix.com/event/3630?lang=ja&sid=1 

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写真⑪ TechSummitでの日本チームの勇姿。練習の甲斐あって大受けでした。

改めてSXSWとは何なのでしょうか?人によっては最高の音楽イベント、人によってはサンダンス映画祭に並ぶ映画フェス、人によってはその年のテクノロジー動向を占う見本市。このように参加する人それぞれに全く異なるバリューが存在するのがSXSWです。

個人的には凄い人間と巡り会える巨大なソーシャルメディアだと認識しています。確かにここでしか出来ない出会いがあるのがSXSW。そこで単なるビジターとしてではなく当事者として参加したいと強く思うのは、そのソーシャルメディアでより意味の有る出会いを求めているからに他有りません。

ですからSXSW2013では2012以上のコミットメントで参画したいと考えています。今回参加した日本のスタートアップの皆さんも同じく、次来るときは見てろよ!という闘志を沸き立たせている人が多いと思います。今年はブース出展しなかった(次年度への準備などを兼ねての来訪ですね)方にもそういったウィルを感じました。SXSWには、そういった「参加して、自ら表現したくて仕方なくなる」オーラが充満しているんじゃないかと思います。

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写真⑫ トレードショー開設中もブースのあちこちで作戦会議。誰もが真剣です。

今回参加したスタートアップにとってSXSWのインパクトは相当大きかったと思います。なにしろあれだけの規模、あの独特の空気の中で、直接商談をする機会なのです。しかもそうそうたるテック系セレブとの対話が普通に出来てしまう環境、世界との距離の近さ(あるいは遠さかもしれませんが)をこれほど生々しく感じられるチャンスはなかなか無いでしょう。そして、ここでの学びを通じて、当然の様に自分たちの製品戦略や海外展開にも変化が求められることでしょう。

SXSW2012でのアチーブメントのひとつはオースティン市の振興局の方々との親交が結べたことでした。税制優遇やシェアオフィスの提供など、メニューは多岐に及んでおり、既に6年の実績が有ります。実はフェイスブックとアップルが巨大キャンパスをパロアルト以外に作るのは、このオースティンが初だそうです。その際の決定要因もそのプログラムのメリットが大きかったこと、そして産学協同(テキサス大学など著名大学があるのもオースティンの特色です)の魅力も大きかった様です。もしかすると、サンフランシスコやニューヨークなどに加えてオースティン市をスタートアップの地にする日本人が今後出て来るかもしれませんね。

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写真⑬ SXSW2012のプラチナバッジ、オースティンに来たら即レジストしましょう。バッジでアクセス範囲が変わります。

不思議な物で、サウスバイで共に闘った同士の結びつきはとても強く、まったくもって戦友と呼ぶしか無い同志になります。それはきっと日本人同士だけの現象じゃなく、世界中から集まった同志が多かれ少なかれそういう気分を共有しているのです。だからこそ、毎年ここに来ることが、単に産業見本市とか技術交流目的のカンファレンスでの同業者と言った意識を越えた共感共有を呼び起こすのでしょう。既にサウスバイサウスに参加したスタートアップ同士がお互いそういう意識を醸し出しているのではないかと思います。

たまたま初日、オースティン空港から会場に向かうシャトルバスで知り合ったヒューストン大学の先生は、韓国産のバイオレンス映画が好きでSXSW FILMに来たと言っていました。ですから、個人的な興味としては決して被らない。でも、なぜか凄く親近感を感じて仲間意識が醸造される。不思議な一体感を再確認しました。なにかすごくカルチャー的なものに惹かれていて、そういう会話が好きで堪らない!そんなマインドで数万人が集まっている場がそこにある。だからこそ映像、音楽に限らずウェブやゲーム、開発言語や最新ガジェットなどディープな興味対象が混沌と集まって来るのかもしれません。

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写真⑭ SXSWインタラクティブ後半はSXSWミュージックと重なっているので街のムードは一変します。

ここまでが僕なりのSXSW総集編です。恐らく他のスタートアップの皆さんからも今後多くの情報発信が行われることでしょう。4月3日には銀座のアップルストアでワイアード日本版主催イベントが行われるのですが、そこに僕とCompath.me安藤さん、イーストツギヒロさんなど参加してのSXSW特集を予定しています。ここでしか訊けないコメントや貴重映像も多数フィーチャーしますので、こちらも是非お楽しみに!なかなか日本からでは分かり辛いSXSWの生々しい体感をお伝え出来ればと思っています。ブログやソーシャルでは伝え切れない感動がそれぞれの参加者の口からどのように飛び出すのか?僕自身も凄く愉しみです。

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写真⑮ いつものオースティンなら日中は日本の真夏並みの暑さの筈が、今年は会期前半非常に寒かった異例のSXSWでした。

今回のSXSW2012は本当に忘れ難い物になりました。取材で大変ご協力いただいたTechWave本田さん、Gizmodo尾田さん、WIRED小谷さんに感謝致します。また、常に素晴らしい番組でSXSWを盛り上げて頂いている次廣さん、陰ひなたに根気づよくご支援頂いているSXSWアジア事務局の皆さんにも心からありがとうございます。ぜひSXSW2013で再会致しましょう。

また、来年こそは!とお思いのスタートアップの皆さん、4/3のAppleStore銀座でのワイアードイベント、4/5mixi本社で行われているミートアップイベント、いずれもお薦めですので是非いらっしゃってください。会場でお会い出来るのを楽しみにしています。

注:写真⑨は PicoTube山下さんの撮影です。写真⑦⑩⑫は はてな近藤さんの撮影です。写真⑪はオードリーキムラさんの撮影です。写真⑭は博報堂DYの上路さんの撮影です。