以心伝心記

Technology is anything that wasn’t around when you were born.

iPhoneアプリはライフスタイル製品だ。デザイン視点を拡げれば、きっと見えて来ることがある。

 

新製品リリースに向け日々いろいろなことを考えています。ライフスタイル製品と言う話が結構良く出て来る様になりましたが、アプリ開発ばかりやっていると意外とそれ以外の入力を忘れがちです。今開発している製品は実際に人間が人間同士お互い接しながら触るものですから、どう考えてもライフスタイルに密接な関係を持ちますし、デザインテイストや利用する際のフィーリングや他者に向けたアピールなど個人の価値観を喚起するための工夫が欠かせません。

言い換えると、ワードローブを買ったりアクセサリーを選んだりする際の感覚やセンスを意識した製品デザインが、どう考えても重要になります。

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そこで考えているのはiPhoneのあの非常にフラットなモニター&フロントグリルも含めて、一体の物体と看做してデザインしてはどうだろうか?という視点です。それこそ、モニターにそのアプリの画面がある状態で(個人が画面を眺めると言う使い方ではなく)人の目にさらしたり、注視されて関心を呼び起こす様なシーンをイメージしてみる。それ自体が物体として人の目に触れる事をユーザーがどう意識するのだろうか?という視点を重視してみようということです。

CNET JAPANの記事で(当時はまるでイケテいなかった)AppleのiPodの製品マーケティングを元アップル日本代表の前刀さんがインタビューに応えているのですが、その内容が非常に興味深いです。

http://japan.cnet.com/sp/column_entrepreneur/20340093/

前刀:だから、iPod miniをきっかけに大ブレイクさせていくシナリオを、入社する前から考えていた。「やっぱりこれはファッションアイテムだ」というのもあって、バーニーズのディスプレーなんかでも洋服とコーディネートしたのを知っているかもしれないけれど、あれなんか実はAppleに入る数カ月前に考えた話。バーニーズのクリエイティブディレクターに話をして、「今度ひょっとすると面白い会社に入るので、ぜひ一緒にやりましょう」ってすでに仕込んであったんだ。

 あとはiPod miniを常に必ず5色持ち歩いて、ターゲットは女性だろうなっていうので、いろんな女の子に見せて反応を見ていた。やっぱり最初の反応は「かわいい」とか「何、これ」というのがほとんど。「実は、これ音楽が聞けるんだよ」っていう話をすると、みんな「ええ?」ということになって、さらに「1000曲も入るんだよ」ってたたみかけると、「ええ? すごい!!」ということになる。

 これでファッションアイテムとして成功することの確信を得て、さまざまなアプローチをしかけていった。

(引用終わり)

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メーカー的な発想で音楽プレイヤーを考える場合はどうしても「音質」「機能」「電源」「形状」「重量」など製品そのものの機能性やスペックなどから入りがちです。ただ、多種多様な競合製品から例えばiPodを選択する際、ユーザーは必ずしもそういった個別の仕様を比較検討はしていません。

むしろ、それが自分の好ましく感じる価値観にフィットするのか?それが自分の生活場面に巧くなじむものなのか?自分の個性をアピールする際にマッチするのか?など、感性やイメージを相当に意識しているし、その世界観が生活を豊かにしてくれるベネフィットに投資をする意向がかなり強く作用しています。

ですが、それがいったんデバイスの内部で動作するアプリの話になると、いきなりそういった価値観からは離れてしまい機能性や個別の操作性などに行きがちです。

でも、実はそのアプリこそがユーザーの感性や生活感をより豊かにし、日々を彩ってくれる存在として輝かないと駄目な筈なのです。

ですから、アプリ単体としてのUI/UXというある意味狭い議論からもっと大きく目を見開いてファッションやグッズデザイン、あるいは新しいアートやカルチャーの突端をすくっていく必要があるように感じます。

少なくともiPhoneのボディデザインやOS設計などは、そういった高度の取り組みを活かすに足る品質/造詣によって成り立っています。

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どういう音楽を選び、どういう洋服を選び、どういうアートを好み、どういう乗物に乗り、どういう旅行をし、どういう人とどういう対話をし、どういう食事を摂り、どういう歌を唄い、どういう読書をし、どういう映画を観、どういう恋愛をし、、、、様々な日々の選択をもっと注意深く観察し、もっと豊かな体験、もっと深みのある経験、もっと味わいの有る毎日を送ろうとする努力こそが新しいアプリの価値軸を形成する様に感じるのです。

なんて、普段あまり考えない様な事を考えた2012年の新年でした。