以心伝心記

Technology is anything that wasn’t around when you were born.

Youth Venture Summit でのプレゼンテーション "Our Entrepreneurship" (日本語)

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さて、国際社会に於ける日本人のイメージはどういった感じなのでしょうか?少なくとも日本人はこういった感じで自分たちをイメージしていると思います。

「とても謙虚」で「すこぶる真面目」、「イノベーションが苦手」で「社会や組織の変革を恐れて」いる。「老成してアイデアが欠如」しており、「現状維持」で「内向き」な「保守主義」に固まっている。「冒険しない」主義で「起業家は日陰者」、、、、、多かれ少なかれ、今の日本の閉塞的な空気に対して多くの若手起業家は半ば諦め気味にそういった(自嘲的)気分に囚われているのではないでしょうか?

でも、それは本当にリアルな日本人像なのでしょうか?日本人はもはや想像力を失った既得権益者に過ぎず、世界に衝撃をもたらすような開拓者魂を持ち様が無いのでしょうか?この社会は、ただ衰退して行くだけなのでしょうか?起業家はすぐさまここから脱出するべきなのでしょうか?否。今日は百年程遡って我々の先輩達の悪戦苦闘を振り返ってみましょう。

 

新渡戸稲造、1862年生まれの日本人です。1900年に彼の著した"武士道 The Soul of Japan"はたちまち世界的ベストセラーになりました。社会全体への義務を負う公的な存在として自己を捉える武士道精神を伝え、ルーズベルトなど多くのリーダー達に影響を及ぼしました。

岡倉天心、彼は1863年生まれですね。1906年に刊行された「茶の本」- The Book of Tea では、一杯の茶から独自の日本文化論を語り起こし、"西洋の人々よ、小さなものの中に潜む偉大さを決して見逃してはならない"と、東洋的知性が導く新しい視点視野(パースペクティブ)を提起しました。

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これらの試みは、まだまだ三流国だった明治日本の経済的貧困と文化的後進のなかから高らかに自らの挟持を述べるだけでなく、西洋的合理主義の独善に対して東洋的理想主義を指し示そうと試みた、非常に高邁で意気軒昂な文化的発信なのでした。

実は武士道と茶は共通した価値観に根ざしています。欲望をむさぼり過ぎず、自我に囚われ過ぎず、自ら"足ることを知り"、己を深く見つめ直し、自己と他者の境界線を超越して、ごくごく小さな日常的行為にも宇宙の広がりを感じる。なかなかユニークな態度です。それを日本人に向けて日本語で内向きに語るのではなく、世界の読者に向け堂々たる英語で語りかけた彼らの野心と意志に私は強く惹かれます。

さて、皆さんもご存知のセカイカメラ、これも非常に日本的な世界観で開発された製品だと言えます。

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現在とは、絶えず変転しつつある無限のあらわれであり、本来的に相対な場なのである。この相対性にどうやったら正しく対応できるのか?その秘訣が「この世に生きる術」なのである。身の回りの環境、変わりゆく状況に絶えず調整していく術なのである。(茶の本より)

The Present is the moving Infinity, the legitimate sphere of Relative. Relativity seeks Adjustment; Adjustment is Art. The art of life lies in a constant readjustment to our surroundings. (原文)

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人は常に移動しますし、世の中は常に変転します。あなたが眺めている何気ない景色にも多くの多様な変化が含まれていて、ただ散歩をしているだけの街角にも多くの驚くべき発見が有る筈です。それを可視化して、なんとなく普通に感じている日常にこそ創造的な探索をもたらしたい!それがセカイカメラです。

百年前の稲造や天心には遠く及びませんし、彼らの英語力を考えるともっと英語をスタディすべきだと自らを戒めるのですが(苦笑)、オリジナルの価値観をグローバルな価値観に向けて正面からぶつけることで新しい驚きと新しい提案を届けられる事が示せました。

Look Up! Not Down! New Interface Between Real World and Virtual World…。臆する必要は全くありません。堂々と新しい価値観、我々ならではの視点視野を自信を持って届けましょう!

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さて、次の動画はdomoというアプリケーションのプレゼンテーションです。そもそもdomoという製品は、「どうも」と言う言葉のユニークさに惹かれたから開発したと言う側面があります。

「どうも」ってかなり不思議な言葉なのですよ。「こんにちは!」「さようなら!」「おつかれさま!」「おだいじに!」「すいません!」「おせわになります」「よろしくおねがいします」本当に多様なニュアンスを含んだ万能のユーザーインターフェイスだと言えます。世界を見渡しても、なかなかユニークな言葉じゃないかと思います。

人と人がお互いを晒して、お互いを知れば、きっと分かり合えるに違いない。話せば分かる。文化的背景や言語的習慣を越えて分かり合える筈だ。「どうも!」って気軽に言葉を交わして、お互いを思いやって、お互いのアイデアをオープンにシェアする。和をもって尊しとなす( e.x. To keep a harmony among people is the most respectful thing. )は日本人の精神文化ですが、domoはまさにそれを体現したツールです。

年齢や肌の色や国境や思想信条を越えてお互いの繋がりを確認できる。人と人の交わりを、もっと緩やかでスムースなものにした!それがdomoです。

 

セカイカメラdomoシリコンバレーで我々のアイデアやテクノロジーを自分たちの言葉で自信を持って伝えようとした小さな試みです。でも、意外な事にシリコンバレーに無かったからこそ大きな反響を呼び、多くの議論を呼び、多くのコラボレーションがここから始まりました。

セカイカメラとdomoのファンは世界中に居ます。特にセカイカメラエアタグは、世界中に書き込まれています。シンガポールにもワルシャワにも上海にも。もしもあなたの街にそれが無い場合は是非書き込んで下さい。セカイカメラはオープンな情報共有のインフラです。domoはオープンな人間関係を形作るアイデアです。

オープンにお互いがシェアできる、お互いがお互いの個性を認め合うピースフルな環境を提供したい。一杯の茶がお互いの精神の繋がりをもたらす(茶は武士の高貴なコミュニケーション手法でした)。

「一期一会」と言いますが、このカンファレンスで出会えたことは限られた人生の貴重な機会であることは確かです。どうもこんにちは!言語と国境を越えて、お互いがお互いを尊重する態度、そこから生まれるイノベーションが、新しいアジアの胎動と2010年代のテクノロジーの進化発展をもたらすことを切に望みます。

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セカイカメラで生まれた縁で昨年12月にアマゾンのジェフベゾスとじっくり話し合う機会がありました。彼は保守的で大企業が強い日本の市場環境を踏まえて「日本で起業家でいる事はどんな感じだね?」と私に質問しました。私は「とても大変です。でも、とても大変だからこそ価値があります。誰にも認められない事こそチャレンジすべき事です」と言いました。

そして、彼はその苦境に対して「とても良いサインだと思います」と語りました。「良いサイン!」なんと痺れる言葉でしょうか?「困難に挑む人間に取って、その困難が大きいと感じられる事は、とても良い予兆である」そのサジェスチョンはいまだに自分の脳裏に鳴り響いています。ありがとうジェフ!そして、アマゾンで味わったシアトルコーヒーは日本の緑茶に負けず劣らない素晴らしい味わいでした。

さて、いかがでしたか?僕は日本の起業家が「謙虚で、地味で、積極性やイノベーションが無い」と思われているイメージを書き換えたいと願っています。その一方で日本的なピースフルな精神、お互いを認め合う姿勢をテクノロジーに活かしたいと考えています。

韓国や中国の起業家の皆さんがシリコンバレーで堂々と素晴らしいスピーチでプロダクトやアイデアを語られている姿を幾度も見ました。ぜひ、手に手を取って、新しいアジアの価値を世界に届けて行きましょう。美味しいお茶、またはお酒を味わいながら、世界をより良くするアイデアを語り合いましょう。どうも、ありがとう!